富樫義博作のマンガ『HUNTER × HUNTER』に忘れられないエピソードがある。
「王」は超人的な能力を持っており(実際人間ではない)、将棋、囲碁を憶えてすぐに人間のトッププレイヤーを打ち負かす。
次に軍儀(物語に登場する架空のボードゲーム)の最強者である女性コムギと対戦するのだが、どうしても王は勝てない。そこで王は相手にプレッシャーを与えるべく提案をする。
「お前の左腕を賭けてもらおう」
コムギは散々悩んだ挙げ句答える。
「いつも私が賭けているものではだめですか?」
「何だ?」
「命です。プロの棋士を目指した日から負けたら死ぬと決めていました」
ひるがえってこんなことを考えてみた。
今年のバックギャモン世界選手権決勝を負けた私に、神様がチャンスを与えてくれた。
「もう一度決勝戦を戦わせてやろう。ただしパフォーマンス・レーティングが2.5を越えれば命をもらう」
私はこの申し出を受けるのか?
さてマンガの中で王は言う。「人の呼吸を乱すモノは欲と畏れだ」と。これはけだし名言だ。そしてコムギには欲も畏れもなく、王には彼女の呼吸を乱すすべがない。
そして王とコムギの物語は収束へと向かう(コミックの30巻)のだが、私は三度読み返して三度とも目からしずくが滴り落ちた。この部分だけをもってしても私は富樫義博を尊敬する。
P.S. 昨日四度目を読んだが、やはりしずくが出た。
25巻の表紙(shonenjump.comより)